コロナ禍にスタートした全く新しい概念の”水”
ーー〈HAVARY`S(ハバリーズ)〉立ち上げのきっかけについて教えてください。
矢野 |
もともと母がペットボトル入りのミネラルウォーターの製造メーカーを経営していて、この業界にはバックボーンがあったんです。25歳の時に事業を継いだのですが、脱プラの流れが加速していく中で欧米では当たり前の選択肢として存在する紙パックの水が、日本には一本もないことに気がついて。プロダクトとのストーリー性を持っている私が取り組むことで、発信できるメッセージも価値のあるものになるし、差別化もできると考え、〈HAVARY`S〉を立ち上げました。 |
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ーー2020年6月に創業ということで、まさにコロナ真っ只中のタイミングにローンチされましたが、営業面で工夫されたことはありますか?
矢野 |
今よりもセンシティブな時期だったので、営業もメールかリモート。その状況下で商品に込めた背景やメッセージを言葉にしてどのように伝えるのかというところはいつも試行錯誤していました。特に〈HAVARY`S〉の付加価値を伝えることに対しては妥協をしたくなくて、大手企業から個人経営のところまで一軒一軒全てに対して自分でプレゼンテーションをするようにしていました。 |
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ーー試行錯誤されていく中で、手応えはどういうところから感じられましたか?
矢野 |
私たちは、「1本の水から世界が変わる」をキャッチコピーに掲げていて、表面的なサステナブルではなく、身近なアクションからスタートしていきませんか?というメッセージをストレートに伝えるようにしています。SDGsを掲げているという会社でも社内の会議や株主総会と言った席ではまだまだペットボトルの水を使われているところも多いので、そういった小さな一歩の重要性というところで刺さりやすいのかなと思いました。 |
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自らが商談することで見えるビジネスチャンス
ーービジネスをされる中でどういう瞬間に仕事の課題を感じますか?
矢野 |
人や会社には色んな価値観があって、環境に負荷がかかっていようが、安ければいいという考えの人も一定数いるんですよね。どうしても全員を味方にすることはできないので、価値観が全く異なる相手にちゃんと価値を伝えるということに対してはまだまだ力不足だなと感じます。 |
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ーーそういうギャップに対してどのように取り組まれていますか?
矢野 |
相手のことを徹底的にリサーチして、言葉選びや伝え方を工夫して臨みます。あとはやっぱり笑顔。嫌味を言われても笑い飛ばして、「そんなことないんですよ。とりあえず採用してみませんか?」という感じで乗り切っています(笑)。 |
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ーービジネスに対するインスピレーションは普段どういうところからキャッチアップされていますか?
矢野 |
取引先が、行政や世界のトップ企業からジムやクリニックといった個人事業主の方まで幅広くて、現場の方たちからの問い合わせや雑談の中で、今ある課題について知ることが多いです。その一方で会長クラスの方とお話をする機会もあって、「こんな温度差があるのか」とか、問題も色々と見えてくるので、直に足を運ぶことには本当に価値があると確信しています。 |
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ーーチーム作りで大切にされていることはありますか?
矢野 |
〈HAVARY`S〉は少し特殊で、知人の紹介や知り合いの方が会社の理念に共感して、手伝っているうちに気がついたらトルネードスタイルで巻き込まれているということも。意識しているのは、反対意見も含めてニュートラルにみんなが意見を言えるチーム作り。スタッフには私よりも情報や知識のある人が多いので、みんなが能動的にどんどん動いていって、私も教えてもらいつつ、助けてもらいつつというような形でやっています。 |
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コネに頼らず正面から取り組むことが問題解決の鍵
矢野 |
スタートしてからの苦労と挫折というのはむしろあんまり感じていなくて、最初のスタートするまでが大変でした。特に、このパッケージの紙を探し出すのには一年弱くらいかかりましたね。 |
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矢野 |
普通の資材だと水に臭いがうつってしまったり、賞味期限が短くなってしまうんです。その問題をクリアできる方法を見つけるために一番の手掛かりになったのは、海外の商品のパッケージに載っている会社にDMや電話で問い合わせること。特に電話は効果的でした。当時はまだ今の会社もなかったので、「初めまして、こういうことをリサーチしているんですけど…」と切り出すと、あまり警戒されずに、「この会社は開発が進んでいる」とか、「ここに電話してみたら?」と電話口で色々教えてくれました。 |
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矢野 |
「紹介しようか?」と声をかけてくださる人もいるんですけど、業界の中にいると情報にバイアスがかかりやすくて、案外当てにならないんですよね。周りからは驚かれますが、変なコネクションに頼らずに正面から交渉した方がいい出会いがあると実感しています。 |
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矢野 |
中学生の時に出会った、『GRID』という本にもなっているアンジェラ・ダックワースさんのスピーチに感化されました。GRIDという言葉には耐え抜く力という意味があって、体育会系のガッツとはまた違うんですよね。本能的に人生においてこのGRIDはIQや偏差値、英語力や見た目よりも絶対に大事な力だなと。大人になった今でも、断られても電話して、あしらわれても笑顔でやり抜くといったモチベーションは、継続して自分のマインドの根底にあるものだと思います。 |
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ブランディングを左右するディテールへのこだわり
矢野 |
8月からポルシェジャパンさんと一緒にコラボレーションした取り組みが始動します。具体的には、オリジナルパッケージの〈HAVARY`S〉を全国の販売店へ導入していただくというものなのです。実は先日発表されたプレスリリースを見て驚きました。新しくて小さい会社の私たちを対等に書いてくださっていて、とても光栄なことだなと誇りに思いました。 |
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矢野 |
私はプライベートでもハイブランドが大好きだし、旅行やレストランでラグジュアリーな空間が好きなんです。そこでいつも考えるんですけど、辿り着いた答えはディテールでした。例えば、コンセントケーブルが見えているとか、店員さんの髪型が乱れているといった些細な積み重ねで印象が大きく変わってしまう。だからこそ、細かいところまで気を配れる人材とサービスクオリティがあってこそ成り立っているんだなと感じます。 |
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矢野 |
言葉はシンプルですけど、難しいですよね。とにかくお金をかければいいということではなくて、気づきなので。まずは、できる範囲でこだわりを妥協しない。「まあいっか、とりあえず」というのを見過ごさないことは私たちの課題でもあります。 |
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矢野 |
年内のプロジェクトとしては、飲み終わったハバリーズの空き容器を回収して作った再生トイレットペーパーをリサイクルに協力する企業やブランドに還元する取り組みを進めています。そのリサイクル全体の流れを見える化することで循環型社会を促進させることにつながるといいなと思っています。 |
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写真:猪原悠
※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。