FEATURE 2022.03.25

女性たちの声と社会を繋いで、未来の選択肢を広げる。ーーランドリーボックス 代表取締役 西本美沙

生理をはじめとした婦人科系のこと、セックスのこと……。女性が心身ともに健やかに過ごすために必要な情報を得られるコミュニティプラットフォーム「ランドリーボックス」。代表を務める西本美沙さんは、周囲の女性たちに自主取材を行ううちに、普段オープンな場では話されない話題を語り、選択肢を知る場の必要性を感じて起業した。今では読者間の情報交換に留まらず、メーカーとユーザーとの橋渡しの役割も担う。西本さんに、女性たちを取り巻くウェルネスの現状について聞いてみた。

生理のことを入り口に、自分の体と向き合ってほしい。

「ランドリーボックス 」は2019年にスタートし、現在では約80名のライターがコラムを執筆。「生理」を中心に、セクシャルウェルネス、妊活・出産、更年期、婦人科疾患、性教育などの女性のウェルネスに必要な情報が得られる記事がアップされ、記事内で紹介された生理用品やフェムテックアイテムの一部は同サイト内で購入できる仕組みになっている。 

ーーPR会社やIT企業を経て、「ランドリーボックス」を起業されたとのことですが、きっかけは何だったのでしょうか。

西本

自分が務めていたIT企業がブログのサービスを立ち上げたので、プロモーション担当としてユーザビリティの確認のために自分も匿名でブログを書いてみようと思ってテーマを探し出したんです。ファッションや食べ物に関してはすでにたくさんのブログがありましたし、まだあまり人が手をつけていなくて自分が興味関心がある内容を考えて、セクシャルウェルネスも含めた女性のウェルネスについて書いてみることにしました。周りの友人に自主取材を重ねて記事を作成していくうちに、徐々に反響が得られるようになって……。そうして前身の「ランドリーガール」という、ブログよりも少しメディア寄りの媒体を始めてメーカーにも取材をするようになり、読者からの相談も届くようになり、「みんな、言わないだけで実は悩んでいたんだな」と気が付いたんです。そうして起業し「ランドリーボックス 」というプラットフォームを立ち上げることにしました。

ーー「ランドリーボックス」立ち上げの際に、生理にテーマをフォーカスしたのはどうしてなのでしょうか。

西本

私の元に集まってきた女性の声は、体の悩みから心の悩み、パートナーとのコミュニケーションから自らの疾患の話まで多種多様でしたが、その大前提に「自分の体についてどれだけ知っているか」という問題が横たわっていました。生物学的女性には生理があるので、まずは自分がそのことについて知って、その期間を楽に過ごせるようになることがひとつの成功体験になるんじゃないかと考えたんです。そこで、自分の体について考える入り口として生理にフォーカスしてみることにしました。

ーー今ではフェムテックのメーカーも増えてきましたが、2019年はまだフェムテック という言葉の認知度もそこまで高くなかったように思います。フェムテックや女性のウェルネスに関するサービスを立ち上げる際にハードルになったことはありませんでしたか。

西本

現状、約80名弱の方がコラムを書いてくださっています。普段人にはなかなか話さないようなことを、公にリアルに書き連ねるのはすごく大変な作業だと思います。だからこそ、「書いてくださる方をどう見つけるか」、その次に書き手になったことで「不快な気持ちにならないように」というのは、運営をする上で何より大切にしています。誤解を生んでしまったらSNSで予期せぬ方向性で拡散されてしまったり、リスクも大きい時代なので、いかに守れるかというのはかなりデリケートに考えています。編集のタイミングで、ミスリードになっていないか、誰かを傷つける内容になっていないかは慎重に確認して進めるようにしています。

女性の健康問題は、女性だけの問題じゃない。

ーー「普段人にはなかなか話さないこと」の声を集めたことで、どんな反響がありましたか。

西本

コラムやテーマによって、本当に様々な反響をいただきます。平均的な読者の男女比率は、女性7割、男性3割ですが、いわゆる男女の相互理解を主軸としたような記事だと男性の割合も増えます。あるコラムで、『パートナーに生理1日目のナプキンを見せてみた』という内容があったんですね。自分の生理をパートナーに理解してもらうために、「ちょっと見てみない?」と提案し、見せてみて、そのときの心境やパートナーの様子を記事にしたものでした。それに対して、パートナーの男性側も「妻がナプキンを見せてくれた」というアンサーコラムを書いているのですが、これには本当に多くの声が寄せられました。このことから感じたのは、圧倒的に”互いを知る機会”が少ないのだということ。性教育が十分ではない日本の現状で、女性同士でもなかなか生理の話はしないのに、男性が知る由もないんですよね。「ランドリーボックス 」を開始して間もないタイミングで掲載したコラムでしたが、女性の健康課題は、近くにいる人、それが違う価値観や違う性別の人であっても、共有していく必要があるのだと考えさせられました。

ーー興味深い事例ですね。コラムを発表される度に様々な声を集めていらっしゃいますが、次のステップとしてはどんなことをお考えなのでしょうか。

西本

「ランドリーボックス」のテーマは「あらゆる私に選択肢を」。みなさん体も価値観も違うので、全員に当てはまる”正解”がないというのは、実際に運営していても感じること。でも話を聞いていると、「自分と似たようなケースを知りたい」、「視野を広げたい」と、何か自分が行動をするきっかけを求めてらっしゃる方は多いんですよね。色んな価値観があって良いんだよということを伝えるために、まずプラットホームを作って、色んな書き手の方々にご自身のリアルを発信していただける場所を作りました。

 

スタートして4年目を迎えて、メーカーとユーザーの声を繋いで新しいサービスを作っていくことも考えています。メーカーが良い商品を作っていても、コミュニケーションがうまくいっていない事例も目にしますし、逆にユーザー側からの「もっとこんな商品がほしい」という声も多く耳にします。

プロモーションをきっかけに、選択肢に気が付くことも。

西本

 

記事をアップするときと同じように、アイテムをプロモーションするときも、ミスリードがないようにしないといけないんですよね。例えば「経血量が多い人向けのアイテム」を必要としている人がいるのも事実だけれど、経血量が多いのは婦人科疾患の可能性などもある。それをプロモーションすることは「経血量が多くてもこれさえあれば良い」というメッセージを伝えたいわけではない。メーカー側も、女性の体を健やかにすることで社会を変えていきたいと思っている会社が多いです。

 

だからこそ、その部分までセットで発信していかないと、単純なプロダクトのPRだけでは真意は伝わりきらない。私たちとしても、単純にプロダクトのレビューだけを展開するのではなく、「なぜこれが必要か」という情報を伝えることを大切に考えています。「世の中の声と企業の本音をブリッジする」のが、私たちにとっての”ブランディング”ですね。

ーーフェムテックの良いプロモーションは、女性たちが体の不調に気付くきっかけを作ることにも繋がるのだということがわかりました。選択肢に気が付く、知識を得られるフックが世の中に増えていくのは重要ですね。

西本

そうですね。本当に「ありがたいな」と思うのが、みなさん積極的に情報をシェアしてくれる人が増えたこと。普通、広告とかプロモーションってSNSでもあまりシェアしないじゃないですか。ましてや、体の悩みなどセンシティブな内容はシェアしづらい。

 

それがここ数年で実体験を添えてシェアしてくださる方が増えました。リアルな体験談をきっかけにして、体の不調を解決した経験がある読者の方も、「私の場合はこういうことしたよ」「私もそうだった。当時の自分に教えてあげたい」って、つい言いたくなると思うんですよね。自分の悩みは、自分だけの悩みじゃないかもしれない。「ランドリーボックス」で今コラムを書いてくださっている多くの方が、そういうモチベーションを持っているのだと思います。いち企業のプロモーションにおいても、共有の派生が生まれるのはすごく重要です。

 

写真:猪原悠

※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。