CIP 2022.05.11

日本の性教育を変えるため、まずは自分たちが社会であるべき姿に。 ーー般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

Forbes Japanが毎年発表している「30 UNDER 30」(世界に多大な影響を与える30歳未満の日本の30人)の2022年度版を受賞した鶴田七瀬さんは、日本の性教育を変えるためにプロダクト開発・普及を行っている。性教育が日常に溶け込むことを目標に、「性教育トイレットペーパー」やプライベートゾーンを学ぶカードゲーム「プラベ」、性の課題を学ぶボードゲームなど、子供向けだけでなく教員や保護者向けの教材も販売。ソウレッジのメンバーや寄付者、プロボノと共に1つのチームとして日本の性教育に影響を与え続ける鶴田さんの「仕掛けの素」を伺った。

 

疑問を疑問のままで流さないこと。

ーー「性教育トイレットペーパー」やプライベートゾーンについて学ぶカードゲーム「プラベ」など子供向けの性教育教材を作られている鶴田さんですが、ご自身は幼少期どのような子供だったのでしょうか。

鶴田

 疑問に思ったら「そういうもの」としてそのまま流して受け入れることができない子供でした。例えば通っていた学校では、制服の下に着るセーターの色が校則で指定されていたのですが、見えない部分の色を服装を指定してくるルールの合理性が分からず……。理由のない校則や既存のルールに対して常に疑問を感じていましたね。

 ジェンダーによる固定観念に関心を持ったのも幼少期でした。きっかけはランドセルの色。女の子は赤、男の子は黒という理由のないジェンダーロールに違和感を覚えたんです。他にも露出の多い服装をすると、「痴漢にあうからやめなさい」という風に注意されたり、ジェンダーによって出来ないことにモヤモヤしていました。

ーー一般社団法人「ソウレッジ」を立ち上げる以前に何度か留学を経験している鶴田さん。子育てや性教育について、海外と日本の違いや気付いたことなど留学時代のエピソードを教えてください。

鶴田

 最初はオーストラリアに1年ほど留学し、子育て支援を学びました。日本は子育てに関して自己責任感が強い国です。あくまでも家庭内で背負いきり、頼れるとしても親族だけ。もっと子育てのやり方や関わる人に様々な選択肢があっていいと思っています。例えば、日本では保育園や幼稚園に子供をあずける家庭がほとんどですが、オーストラリアにはオーペアという制度があり、日本で言うベビーシッターのような人がいます。子育てのやり方に選択肢があるのが良いなと。

 次に、性教育の勉強がしたいと思いデンマークに留学しました。デンマークでは性教育が日常に溶け込んでいると耳にし、行って体験してみたいと思ったからです。性教育は重要なことだけど、日本において、留学した4年前は今よりさらにタブーとされていたり、性教育をしようとする人は少なかった。実際にデンマークで過ごすと、性教育について文化の違いが見えてきました。

 デンマークは日本と違って、性教育を家族と話し合う家庭が多いです。例えば、パートナーが出来たことや女の子が初潮を迎えたとき、避妊具の相談など。女の子側もピルを飲むのか、ミレーナやインプラントを入れるのかなど避妊の選択を家族と相談します。教育現場で性教育が当たり前に扱われているからこそ、家庭でもそのような話をされているのだと感じましたね。

ーー教育現場において性教育が当たり前に扱われていることについて、デンマークと日本の具体的な違いは何ですか。

鶴田

 まず、性教育の授業数に違いがあります。デンマークは性教育の数がとても多く、少なくても年に1回以上。性教育をスタートする年齢が早いだけでなく、日本のような「受精にいたる過程(性行為)についての説明を省く」という学習指導要領の歯止め規定がないため、性的同意をとるタイミング、避妊具の使い方、つけるタイミングなど具体的な授業が展開されます。授業以外にも頻繁に先生や家族が性について話していたり、とにかく子供が性教育に触れる機会が多いです。周囲の大人がそういう風なので、子供達も当たり前に性の話をしていますね。

 日本の多くの学校では性教育は3年に1回あるかないかの回数でしか行われません。その3年に1回を休んだ生徒は次の3年に1回に受けるか、もしくは一生受けられない可能性がある。ソウレッジの活動をしている中でも「自分は性教育を受けた覚えがない」という声をよく耳にしていて、受けたかどうか覚えていないくらいの回数しか行われていないのが現状です。

 教員要請の必修科目に性教育がないので、専門知識がないまま生物学的な説明というよりファンタジーのように話していたり、医学的な根拠がないことを教えてしまっていたりする先生もいて……。デンマークでもそういうことはあると思いますが、回数が多い分色々な人から性教育を受ける機会があるので、正しい情報かどうか取捨選択できるんですよね。また回数が少ないということは忘れてしまったり、勘違いのまま覚えてしまう可能性もあります。少ない回数で1人の先生の情報を鵜呑みにしてしまうのは、とても危険なんです。

子供たちが性教育と触れる機会を増やしたい。

ーー知識に触れる回数に違いがあるのですね。そうした日本の性教育においての課題は何でしょうか。

鶴田

 日本では性教育を教える立場の担保がされておらず、専門家か教職員に限られてしまっているのが問題です。教職員にとって性教育は自分の専門外のことなので、教えることを諦めている人や間違ったことを教える恐怖感がある人、そういう視野が全くない人もいます。

ーー課題に対して、どのようなアプローチが必要だと思いますか。

鶴田

 まずは、教員養成過程で性教育を必修にするべきだと思います。次に、授業の時間外でも性教育に触れられる機会を作ること。例えば、校内にポスターを貼る、教材を置く場所を増やすなど色々なやり方があると思うんです。

 デンマークと日本の1番の違いは接点の数だと気づき、「日常の中に性教育を取り込むこと」をテーマに据えたとき性教育トイレットペーパーのアイディアが浮かびました。トイレは誰にとっても日常的に使用する場所であると同時に、個室に入ることでプライベート空間を作れるところがポイントです。日本はデンマークと違って、まだ性の話に戸惑う人もいます。特に性教育トイレットペーパーを思いついた4年前は「性教育は性行為の仕方を教えるもの」と言われてしまうくらいの認識だったので、トイレの中のようなプライベート空間で性教育ができることを大事にしていました。

 日本では女の子が小学校4年生から性教育が始まるのですが、それでは遅いと思っています。例えば性被害にあって誰にも相談できなかったり、そのときは認識せずとも後々鬱病やPTSDを発症する可能性が高いのは小学生です。だからこそ小学生がまず知識を得ることが必要。ソウレッジが子供向けの性教育教材を作り続けている理由はそこにありますね。

 最終的には先生や家族が子供と性について話せるようになることが重要だと思っています。ソウレッジでは保護者や教職員など大人向けの講演会も行っているのですが、そこで初めて子供の性被害を目の当たりにする人が多いです。実際の被害者数や割合を聞くまで、性被害は社会の中で稀なものだと思っている人はかなりいる。まず日常の中で性教育が当たり前の状態になること、その結果社会環境が変わっていくことの両方が必要だと感じますね。

ーーソウレッジの活動の中でハードルに感じていることはありますか。

鶴田

 ジェンダーやフェミニズム関連のビジネスはここ最近で非常に増えています。しかしその中に真剣に女性のセルフケアについて考えている人はどれくらいいるのか、その見極めが難しい。実際、女性の健康が阻害される可能性よりも自分たちの利益を優先する企業は多いです。もちろんビジネスも必要ですが、お金が回ることを目的にしてしまうのは良くない。寄付者のことも考えるとお金の使い道はちゃんと精査しなければならないので、本当に使うべき場所かどうかの見極めを大事にしています。

まず自分たちが社会のお手本に。

ーーソウレッジはメンバーだけでなく寄付者やプロボノも含め、1つのチームとして活動していると思います。チームの中で心がけていることは何でしょうか。

鶴田

 自分達の団体自体が社会の中であるべき姿でいたいと考えています。例えばパワハラをしないことはもちろん、本人が望んでいないことを無意識にお願いしていないか気を配るのは心がけていることです。望んでいなくとも仕事として割り切るべきものもあるので、伝えるべきこととそうでないことの範囲を丁寧に考えるようにしていますね。そのために、自分がソウレッジの中でどんな活動をしたいか、どんなことに喜びを感じるかメンバー間でしっかり話すことが大切です。

ーー鶴田さんの考える良いチームとはどんなチームでしょうか。

鶴田

 

 自分達で勉強する気持ちがあるチームです。私だけが決断をするのではなく、自分で考え結論を出し、それを検証することをメンバーにはしてほしいと思っています。今のチームはそれが出来るようになっていますね。

 もう1つ大切にしているのは、情緒の共有です。 ソウレッジでは定例会議を開いて今日のコンディションを報告し合っています。「パートナーと別れて元気がないです」や「今日生理なんだよね」など、そこで何も言わない人もいますし、どこまでの情緒を共有するかは個人によって色々。そうした共有をしない組織は多いですが、家庭内での出来事やその日の体調などの生活の延長線上に仕事があると考えているので、より心地良い生活を送るためにも情緒の共有は大切です。共有した結果、メンバー同士がお互いの関係性に愛着を持つようになりました。ただ単に同僚という訳ではなく、共に人生を歩む仲間のようなチームでいたいですね。

 

写真:石渡朋

※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。