
考えたのは「なぜ地域の魅力が人に伝わり辛いのか」
ーー永岡さんが「おてつたび」を立ち上げたきっかけを教えてください。
永岡 |
私の出身地は、三重県の尾鷲市。東京から車や電車で6時間くらいの、漁業と林業が盛んな所謂”地方”の出身です。尾鷲市のような著名な観光名所がない地域は観光客が少なかったり、他県に住む人々に魅力を伝えづらく、過疎化や高齢化でどんどん人口が減っています。そんな原体験がありながら、大学進学と同時に関東に出た後は東京で食育を中心とした地方の活性化や食の推進を掲げる企業で働いていました。そこで全国各地方を巡る機会があり、様々な場所へ行く中で、尾鷲市のような”魅力が発信されていないだけで、魅力的な地域がたくさんある”と気付いたんです。そうしたきっかけから「なぜ地域の魅力は外部の人々に伝わりにくいのか」という課題が自分の中で生まれ、「おてつたび」というサービスへ繋がりました。 |
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ーー旅行客と地域の農業や産業をマッチングさせる、「おてつたび」の仕組みはどのようなところから思いついたのでしょう。
永岡 |
東京の会社を退職して半年間、数えきれないほどの地方へ足を運びました。その半年で、地方に人が集まらないのは金銭的ハードルと心理的ハードルの2つがあると考えたんです。観光名所が少ない地域ほど、交通機関の価格競争が起き難いが故に料金が高騰しがち。韓国や台湾など海外への旅行もLCC等を活用して格安で行ける中で著名な観光名所がなく魅力が見えにくい地方を選ぶ人は少ないのが現状で、これが1つ目の金銭的ハードルですね。
2つ目の心理的ハードルは地域の魅力が外から見えづらいため、行くきっかけがないということ。例えば目的のスポットがない限り、初めて名前を聞くような場所は旅先の候補になりにくいですよね。観光客にとっての2つのハードルを下げながら住民にとって助かるような仕組みがあると、サービスとして持続できると感じました。そこで注目したのが農業や観光業においての季節的な人手不足。農業などのお手伝いで報酬を得て旅費をリーズナブルにし、「どこそこ」と言われがちな地域にもお手伝いという新しい目的を作ることによって顧客の目的を作ることによって、地方へ訪れるきっかけを生み出す「おてつたび」を思いついたんです。 |
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大切なのはそれぞれの地域を“自分ごと化”してもらうこと。
ーー「おてつたび」を立ち上げる際は、受け入れ先である地域の方々からどんな反応を受けたのでしょうか。
永岡 |
実績のないサービスだったので、口頭で説明しても中々イメージが湧きにくかったり、理解してもらえても「本当にそんなサービスできるの?」と心配され……。「永岡さんの思いは伝わるけれど、どんな人がお手伝いに来るか分からないから怖いよね」と受け入れ先の方から言われていたので、まずは自分を信頼してもらうところから関係構築をしました。地道に何度も地域へ通い、とにかく会う回数を増やして担当者と信頼を築くことで今では、「おてつたびさんが勧めてくださる方なら誰が来ても安心」と言っていただけるようにまでなっています。
地方に住む方々は信頼をコミュニケーションの基盤としているので入り口のハードルは高いですが、信頼関係が築ければ他の農家や企業へ紹介していただくこともあり、今では全国47都道府県850箇所まで受け入れ先が広がりました。その中にはリピーターとして毎年多くの「おてつたび」利用者を受け入れてくださるおてつたび先もあるんです。 北海道・平取町という人口5000人くらいの町のブロッコリー農家「WFPダチョウファーム」さんは、これまでに合計80名の参加者を受け入れてくださいました。平取町は農村地域で若者が観光で訪れるような場所ではないため、しだいに地元の方がおてつたびで来ている若者を気にかけてくだるようになりました。今では、コンビニの従業員の方も「おてつたび」を認識してくださっていますし。近くのガソリンスタンドのご夫婦が参加者に差し入れを持ってきてくださったり、町ぐるみで「おてつたび」を応援していただいているのを感じます。 |
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ーーサービスの利用者の反応はどうでしょう。
永岡 |
利用者の半分が大学生を中心としたZ世代の方です。農業や漁業、旅館の手伝いなど今まで自分が触れてこなかった体験を通して価値観が変わったという方が多くいますね。例えば「80歳くらいの農家の方々と一緒にハードな仕事を体験し自分が筋肉痛になっている中、隣でピンピンしている農家の方の姿を見て、自分が日頃食べている物へのリスペクトが芽生えた」との意見をいただきました。東京に戻ってからも「おてつたび」で訪れた場所の農産物を買い続けていたり、それぞれの地域の“ファン”になっている方が多いです。
私たちは魅力がない地域はないと思っています。長野県上田市で食べたもぎたてのトマトが美味しかったなど、それぞれの場所にそうした些細な魅力はたくさんあると信じています。しかし、美味しいご飯や美しい景色、優しい人などの魅力は全部同じに見えやすく、インターネット上だと伝わらないのが問題。
「おてつたび」の利用者は、受け入れ先とお手伝いという共同作業を通して普段の旅行よりも1歩入り込んだ地域との繋がりができる。農家の方にまた会いたくなったり、自分が植えたイチゴが収穫のタイミングでどうなっているのか気になるなど、参加者が地域を“自分ごと化”できているので、その後も同じ地域に観光客として訪れることも多いですね。「おてつたび」がそうした魅力を感じる1つの手段になると良いと思っています。 |
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ーー受け入れ先、利用者共にリピーターが多いのですね!様々な地域と協力しサービスを続ける中で、永岡さんが感じる地域の課題は何ですか?
永岡 |
やはり1番は人口減少です。しかし、日本全体として人口が減り続けている中で定住者を増やすのは相当難しい問題。そこで私たちは地域に実際に住んでいなくても、定期的に手伝いに行ったり、手伝い後に東京へ戻ってからもその場所の農産物を買い続けて経済を回してくれるような「関係人口」を増やすのが大切だと思っています。もちろんそれだけで活性化へ繋げるのは難しいですが、関係人口が増えた結果に数年後の移住者が増えることもあるので、1人何役にもなって支えあっていく未来を作るのが課題解決に必要です。 |
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ーーそうした課題に向けてどのような取り組みをしていきたいですか?
永岡 |
「おてつたび」自体がローンチして4年目というまだまだこれからのサービスですし、もっとプロダクトとしても使いやすいものにできるのではないかと思っています。受け入れ先の数もまだまだ網羅できていないと思うので、信頼感のある口コミで「おてつたび」の名前が広がるように、一つひとつの受け入れ先と丁寧に関係を構築していきたいです。 |
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自分の居住地以外にも好きな地域がどんどん増えてほしい。
ーー「おてつたび」は現在大学に通うインターン生や業務委託なども合わせて約20名くらいのチームで運営しています。チームを運営・維持するにあたって大切にしていることはありますか?
永岡 |
相手目線のコミュニケーションが大事だと思っています。地域の方が「おてつたび」に興味を持ってくださっていろいろ話しているうちに、「おてつたび」がベストソリューションにならない場合もある。そうした時に他のサービスを勧めたりなど、相手の状況や目線に寄り添うのはチーム全体で大切にしていること。その中でメンバー1人ひとりが伸び伸びと能力が発揮できるように人材が足りないのであれば人を採用したり、メンバーの力が伸びるような研修を実施したりと働きやすい環境を柔軟に整えるのが私の役割ですね。 |
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永岡 |
これから日本を観光立国として推進していくのであれば、やはり都市だけではなく農業や林業などが盛んな地方の魅力が、海外の方にユニークで体験したいコンテンツとして伝わると思います。今後地域が衰退して行かないために、誰もが自分の移住地・出身地以外で定期的に訪れる地域を2〜3個ほど持つことで、人口減少が進む中でも一人が何役にもなれる世界を作り地域が支え合える未来を構築したい。そのためには「おてつたび」をもっと広げていく必要がある。「旅行に行く?おてつたびに行く?」くらいのカジュアルな日常の選択肢として浸透して行って欲しいと思っています。 |
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写真:倉島水生
※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。