FEATURE 2022.03.16

時代に寄り添う美しさを支える、時代を超えた技術。 ー江戸切子職人 三澤世奈

ともすると敷居が高く、自分たちの暮らしから遠いところにあるとも思われがちな伝統工芸品。江戸切子の職人・三澤世奈さんは、2019年に所属する株式会社堀口切子の新ブランドとして「SENA MISAWA」を立ち上げた。彼女が作るのは今の暮らしに心地よく寄り添い、シーンを美しく彩る切子たち。繊細なカットが施されたガラスの向こうには、ひとりひとりが自分の選択を慈しみ、生活を愛でる未来が見えるようだ。

自分が素敵だと思う空間に似合う切子を作りたい。

 

化粧品のパッケージにデザイン起用されていた江戸切子を見て、その美しさに惚れ込み、商品を手掛けた堀口切子への入社を熱望したという三澤さん。その当時は就職は実現せず一度はネイリストとして働き始めたものの、夢を諦めきれずに再度アタック。念願叶って江戸切子職人の道を歩み始めた。

ーーご自身のブランド「SENA MISAWA」で大切にしていることを教えてください。

三澤

江戸切子は白木のカウンターがあるような和食店や寿司屋でだけお目にかかれるもの、というイメージを持っている方もいると思うのですが、私はぜひみなさんの日常にも取り入れていただきたいです。なのでカジュアルなレストランやバー、自宅の食卓にも似合うような佇まいのものを意識して作っていますね。具体的には、ファッション的な要素を感じるニュアンスカラーやマットな質感を取り入れたり、ミニマルなカットで表現したり……。切子の魅力は生かしつつ、華美になりすぎないものが好みなのかもしれません。

 

ーーウェブサイトやインスタグラムにアップしている商品のイメージカットもすごく素敵ですね。

三澤

ありがとうございます。あくまで私の切子は生活の道具。使ってくれる人ありき、だと思っているんです。だから自分の生活と切子との親和性を感じてもらえるように、「切子のある暮らし」をイメージしやすいようなビジュアルを心がけています。あとは自分が使い手だったらどんなことを知りたいか、という視点を大切にして、堀口切子自体のインスタグラムも私が担当しています。

ーーご自身が”江戸切子職人”になるときに、ハードルはありませんでしたか。

三澤

金銭的なハードルはあったし、親方にも心配された点ではありますが、それは珍しい問題ではないと思うので……。私にとってはどうしてもやりたい仕事だったので、事前に準備をして備えておきました。その点はやはり、この業界への参入のしづらさにはなっていると思います。あとは実際に職人になってみて難しいなと思うのが、やはり私たちは芸術作品ではなくて生活の道具を生産している身なので、制作にかけられる時間に制限があること。仕事の作業と、時間内に満足いくものを作り上げる技術を修練する時間を分けて、クオリティを高めていきました。

相手に伝わることが喜びのために、わかりやすくしていく。

ーーやりがいを感じるのはどんなときですか。

三澤

これまで切子を手にとってこなかった若い世代のお客様にご購入いただいて、「初任給で買いました」とコメントをもらったときには感激しました。幅広い人に手にとってもらいたいと思うものの、素材や加工に妥協はできないのでどうしても日用品としては高級な価格帯になってしまう。それでも、自分の暮らしに取り入れるために購入してくれた人の気持ちを思うと、嬉しいですね。

ーー「SENA MISAWA」はやはり幅広い世代からファンを集めていると思うのですが、三澤さん自身は何からインスピレーションを受けていますか。

三澤

身近にいる素敵な人々やSNSを通して垣間見えるライフスタイル、あとは「素敵だな」、「おもしろいな」と感じる空間と出合ったら、”その場にどんな切子が似合うか”を考えています。またそのインプットを商品やサービスとして提供するときには、”わかりやすくする”というのも重要だと考えています。誤解がないように、きちんと伝えたいですからね。そのための行動が”ブランディング”なのではないでしょうか。

変化する切子の魅力をもっと多くの人へ。

ーー競合のブランドなどは、ないのでしょうか。

三澤

 

私たち以外にも切子業界には様々な取り組みをされている方がいて、インスタグラムを積極的に使って素敵な世界観を展開している企業があります。技術や文様などが時を超えて継承されてきた伝統工芸ですが、時代ごとに変化しながら続いてきたものでもあるんです。今はデザインのバリエーションが増えていますし、ネット社会の利点を生かして、各社の良いところを取り入れながら進化しています。

ーー現在の江戸切子の課題はどんなことでしょうか。

三澤

今お伝えしたように素晴らしい商品を作っている会社はたくさんあるのですが、現代の切子の多様性を知る人はまだまだ少ないと思います。各社の個性やデザインの選択肢が広がっていることをまず伝えて、より多くの方に興味を持ってもらうことが大切です。なので、今回のように伝える機会を頂けることは本当に嬉しいです。


職人も減っているので、そういう意味でももっと知ってもらいたいですね。私は、切子を作るのも、使うのも大好きで、とっても良いモノだと思っているので、切子の魅力をもっと多くの皆さんと共有できたらなと思っています。

写真:猪原悠

※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。