FEATURE 2022.04.22

人と自然の共生をテーマに世の中へインパクトを与える ーSanu Inc CEO 福島弦

月額5.5万円で自然の中にもう1つの家を持つことが出来るサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」。代表の福島弦さんは自身を育ててくれた自然に恩返しをしたいという思いからSanu Inc を設立した。彼のバックグラウンドやサービス開始までの経緯を伺うと、「人と自然が共生する社会の実現」を目指しビジネスを拡大する理由が見えてきた。

自分自身を育ててくれた「自然」をビジネステーマに。

2021年春に行ったSANU 2nd Homeの初期会員枠募集は開始からわずか3時間で満員に達した。現在、白樺湖・八ヶ岳・山中湖に3拠点19棟を運営、さらに初夏までには新たに4拠点31棟のオープンを予定しており、すでに多くの人々がサブスク会員枠の順番待ちをしている。

ーー大学卒業後、マッキンゼー&カンパニーを経てラグビーワールドカップ組織委員会に所属などユニークな経歴を持つ福島さんですが、SANUを設立したきっかけは何だったのでしょうか。

福島

 北海道で生まれ育った自分にとって、雪山に行き、自然と触れ合うことは日常でした。しかし、大学で東京に移り、社会人としても都市での暮らしを続けるうちに、自然と触れ合う機会が減っている感覚が自分の中であって。そんなときに、ハワイ最古の島、カウアイビーチで行われた友人の結婚パーティで、SANUの創業パートナーである本間貴裕と出会いました。お互いすぐに意気投合し、本間はそれまで山派の人間だった僕を海に誘ってくれたり、自然の中に連れ出してくれました。それがきっかけで、自分の生活に自然との接点を取り戻したいと思うようになりました。

 

 もう1つのきっかけは、ラグビーワールドカップの仕事をしていたとき。開催地の1つである岩手県釜石市に東京から何度も通う中で、三陸の深い森や四季ごとの自然の移り変わりを見て、「日本にもこんなにも心が動かされる景色があるんだ」という大きな気づきがありました。

 東日本大震災で釜石が被災したエリアであったこともあり、自然の再生をテーマに現地の人々と話すうちに、自分自身を育ててくれた自然をテーマに事業をしたいと思い始めました。奇しくも同時期に本間も同じようなことを考えていて、一緒に何かやろうという話になり、会社を立ち上げたのが2019年です。

 「自然をテーマにビジネスをする」ということ以外、具体的に何をやるかは全く考えていなかったため、どうしたら都市に住む人が自然に触れる機会を作れるかについて1年くらいひたすら考えました。

photo by Yikin Hyo , Timothée Lambrecq

ーーSANU 2nd Homeのサービスを着想する前に、「自然との共生」がテーマとして先にあったのですね。会社設立からサービス立ち上げまでの経緯を教えてください。

福島

 コロナ禍で何をやろうかと悶々と考えているときに、谷川や那須岳に登りに行く機会があって、何度か宿を借りて滞在していました。何度も借りるうちに、「毎回借りるのが面倒だな」、「もうちょっと長く滞在したいな」と色々思うところがありまして……。2泊3日借りて、宿から仕事をし、仕事が終わったら外を散歩する。そんな宿の使い方をとても気に入ったので、継続的に利用できる方法を考え始めました。自分自身もそんなサービスがあれば利用したいと思ったので、直感的に良いと確信していました。

 そこで、「SANU 2nd Home」のアイディアを思いつき、「月5万円でいつでも自然の中に身をおけるサービスってどう思う?」と本間に提案したら、「すごく良いね!」となって、事業化に向けて動き始めました。

まずは自然を好きになってほしい。

福島

 自然をテーマにビジネスをすると決めてから、自分達にどういう取り組みができるのかをずっと考えていました。その結果、一周回って自然を好きな人を増やすことがシンプルな答えではないかと思い、「Live with nature. / 自然と共に生きる」というコンセプトに辿り着ききました。SDGsのバッジをつけて都会から環境保護を発信したり、環境破壊への警鐘を鳴らさないといけないときもあるとは思うけれど、まず「自然の中で吸う空気はおいしい」とか「今日の海は綺麗だったな」と、自然と触れて好きになれば自ずと大切にしたくなるのではないかと。そう考えるようになったきっかけに、写真家の石川直樹さんの言葉があります。ニュージーランドの先住民マオリの人々と自然の関係について、「マオリの森が豊かな自然を保っているのは、人と自然が対等な関係にあることを念頭において、マオリの人が畏怖の念をもって森と関わってきたからだ」と語っていたのにハッとしました。自然を守るために自然から遠いところでCO2削減に取り組むよりも、積極的に自然に触れて、好きになる方が本質的なのではないかと思うようになりました。

 こうした切り口ならば僕らも事業として出来ることがあるのではないかと、事業のヒントにもなりましたね。

世の中にインパクトを与えることで、自然に恩返しを。

ーーSANU 2nd Homeは各地に続々とオープンを予定していますが、ビジネスを拡大するモチベーションを教えてください。

福島

 世の中に対してインパクトを起こしたいという思いがあります。世の中、ひいては自分自身を育ててくれた恩人である自然に対して良いことがしたい。それも色んなアプローチや方法があると思いますが、楽しくやるのが僕と本間のスタイルです。もちろん、警笛を鳴らしながら人々のアクションを止める役割も必要ですが、僕ら自身が楽しむことで、他の人も楽しむようになり、その輪が広がっていくような企業を作りたいなと。

 北海道の自然の中で育った自分にとって、昔からのテーマである自然が、今地球にとって最大のテーマになっている。それが1番ワクワクするし、純粋に楽しいので取り組んでいます。嘘偽りなく、人と自然の共生というテーマに取り組めるのは、僕として良いことですし、真剣にやらなきゃなと。

 一方で、自然を相手にビジネスをするのは、ある意味で自然を消費していないか、自分のやっていることが本当に正しいのかどうか、常に問い続けながら、今も事業を進めています。

photo by Yikin Hyo , Timothée Lambrecq

ーーSANU 2nd Homeのサービスを立ち上げて、周囲の反響はどう感じましたか。

福島

 自然というテーマに何かしらの形で関わりたいと思っている人は多いのだなと感じました。だからこそ、良いテーマだなと思いますし、広い言葉なので色んな切り口で取り組めると思っていて。

 僕と本間みたいにエクストリームに自然に入らなくても、子供たちと一緒に野原の花を摘むとか、普段の食事に気をつけることも自然と共生するということだと思うので、様々な広がり方があると思います。一緒に働くチームメンバーも、SANU 2nd Homeの会員の方も、地元住民の方々も、僕らSANUの活動に何かしらの形で関わりたいと思ってくださっていると感じます。

ーー当初、本間さんと2人でスタートしたSANUは、現在13人のチームに成長されていますが、チームで活動する上で大切にしていることは何ですか。学生時代にラグビーをしていた経験もある福島さんなりのチーム論をお伺いしたいです。

福島

 

 まず、多様性が力だとラグビーから学びました。ラグビー日本代表は日本以外を国籍とする人もチームにいるので、ミッションの擦り合わせが非常に重要です。みんなで日本の歴史を改めて学んだり、『君が代』のさざれ石を見に行ったり、多様性があるからこそ1つのミッションをお互いに擦り合わせる動機にもなる。

 僕たちSANUは、新しいライフスタイルを提案する企業です。それぞれのライフスタイルの適正は宗教や食べ物の嗜好性、ジェンダーなど、あらゆることの関係性で変化すべきだと思います。多様な観点が無ければ、世の中にインクルーシブな提案はできない。会社としてより良い提案をするためにも、チームにとって多様性は必要ですね。

 

 そして、ミッションに情熱を持っていることが1番重要だと思います。SANUは現在13人のチームですが、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」というテーマにそれぞれの角度で取り組んでいます。

 僕たちの場合は「Live with nature. / 自然と共に生きる。」が中心にあって、クリエイティブ、ビジネス、サスティナビリティの3つの柱がそれを囲んでいるイメージです。ビジネス成長のためにコストダウンして格好悪いデザインになっても駄目ですし、デザインにこだわり過ぎて値段が高くなり体験出来る人が限られても意味がない。どこかの柱が突出し過ぎないように本間と2人でバランスを取っています。それが僕たちにとってのブランディングですね。

 サスティナビリティの役割は二人で兼任しながら、本間はクリエイティブ側から、僕はビジネス側から、プロジェクトを引っ張っていっています。バランスを保つためにも、チームを組む必要性を感じますね。

ーー多様な観点の集まりが1つのテーマを問い続けるからこそ、チームとして引っ張り合いながら良い関係を築けているのですね。事業を続けていく中で現在の課題は何でしょうか。

福島

 SANU 2nd Homeの利用を待ってくれている人のために、早くサービスをみなさんの手に届けることが一番の課題です。あとは30年、50年、100年と続くブランドを作りたいので、事業の成長とブランドとしての骨格、環境に対する目線を失わないように手綱を引いていきたい。企業の成長と”ブランディング”の両方を保ちながら事業を進めることが現在の課題です。

 

写真:石渡朋

※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。