CIP 2022.08.10

ルールに縛られない表現で、サーフボードやガラスまでキャンバスに。ーアーティスト・ERI Takagiさん

神奈川県・湘南を中心に活動するアーティスト・ERI Takagiさん。彼女にとっては真っ白な帆布だけでなく、ガラスのウィンドウ、ヘルメットやサーフボードなどの日常のアイテムまで全てがキャンバス。ダイナミックなタッチで描く彼女のペイント作品からは、ポジティブなメッセージが受け取れる。彼女が自分の殻を破り、”ありのまま”をテーマに作品を手がけるようになるまでのストーリーに迫った。

CIPとは

ファッション業界に携わり続けることで培った、Gravity独自のネットワークを強みとしたインフルエンサーサービス。Dear Andy.では、さまざまな分野で活躍する若手インフルエンサーに同年代の若手編集・ライターがインタビューをし、活動の仕組みや影響を与えているものなどをGravityならではの感度やセンスで紐解いていきます。

大好きな絵をまっすぐ続けてきたことで、チャンスが巡ってきた。

ーーERIさんが絵を描き始めたきっかけについて教えてください。

ERI

 正直これという特別なきっかけはなく、幼少期から私にとって絵を描くことは生活の一部でした。昔から自分の世界に没頭するタイプ。学校から帰ってきたら周りに目もくれず、画用紙とクレヨンでひたすら絵を描いているような子供でした。大学も美術大学ではない一般大学に進んだので、まさか今のように絵を描くことが仕事になるなんて思ってもいませんでした。

ーー絵を描くことが、趣味から仕事になるまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

ERI

 大学を卒業した後は、一般企業に就職しました。海外で働くという昔からの目標を叶えるために最初から会社勤めは1年間だけと決め、国外でも働きやすいバリスタに転職。オフィスビルの中にあるカフェで働いていたのですが、そこで後に私の絵の師匠となるアレックスと出会ったのが私の人生の転機。

アレックスはそのオフィスビルにある外資系広告代理店で働くアートディレクターで、彼自身も絵を描いていました。毎朝カフェで顔を合わせるたびに絵の話で会話が弾んで意気投合。その後アレックスは故郷のアメリカに戻ってしまったのですが、LAにある彼のアトリエを訪れ絵の勉強をさせてもらえるまでの仲になりました。

LAから帰国した後、私のことを知らない人にも作品を観てもらいたくて、アルバイトをしていたカフェの一角で展示を開催しました。その個展をきっかけに、ビジネスの繋がりが増えていき雑誌や広告などの仕事をもらえるようになったんです。たくさんの人との出会いがあったから、今大好きな絵を仕事にできているのだと思います。

自然にできた歪んだ線だって美しい。

ーー初めてしっかり絵を学んだというLA滞在期間で、印象に残っているエピソードはありますか。

ERI

 10日間という短い期間でしたが、毎日どこかしらの美術館やギャラリーを回って展示を見て、アレックスのアトリエで絵の勉強をし、とても刺激的で濃い時間を過ごしました。

中でも印象的だったのは、アレックスから「抽象画を描いてごらん」と課題を出された時のこと。それまであまり抽象画を描いた経験がなかった私は、「このモチーフにはこういう意味を持たせて……」とかなり考え込んで絵を描いていました。

するとその作品を観たアレックスが、手に持っていたコーヒーに絵の具を入れて混ぜ、それをキャンバスにバーっとかけ出したんです。呆気に取られていると、次はキャンバスを床に思いっきり投げつけ「ERI、抽象画ってこれだから」と一言。確かに誰もちゃんとした画材を使えと言っていないし、コーヒーに混ぜちゃいけないとも言っていない。絵の概念を壊された体験で、すごく衝撃的でしたね。

 

私は、昔から他人からの目を気にして考え過ぎて「自分がどうしたいか」という気持ちよりも、周りに合わせてしまう性格でした。それが良く働くこともあるけれど、その当時はただ自分のありのままをさらけ出すのが怖かったんですよね。

その性格が、アレックスのアトリエで描いた抽象画の作品にも現れていたのだと思います。コーヒーをぶちまけられた時、「アートにルールは無い。もっと自由でいいんだ」と自分の中のストッパーが外れたような感覚がありました。

コンパスで描いたような真円や、定規で引いたまっすぐな線だけが綺麗だとは限らない。自然にできた歪んだ線だって美しいし、自分はそういった手の加えられていないありのままの姿に魅力を感じるのだと気づけたタイミングでした。

LAに行ったことで、アーティストを始めてからずっと悩んでいた”自分のスタイル”をようやく見つけられたような気がします。

他人と自分自身、内と外の両方向へ訴えかける。

ーー今の作品にそのERIさんの想いが強く現れている気がします。自分の作品を観た人からの感想で嬉しかった言葉や、観てくれる人に伝えたいメッセージなどはありますか。

ERI

 本音を言えば、詳しい感想はいらないです。「なんか可愛い、なんか綺麗」という印象を入り口に、私の作品を知ってもらえたらそれだけで嬉しい。「言葉にはできないけど惹きつけられた、ハッとさせられた」などの何らかの衝撃を観る人に与えられたら、正直なところ何でもいいなと思うんです。

「ありのままでいよう。好きなものを好きと大声で言おう」というのが全ての作品に共通する私の絵のテーマ。このテーマを「作品を通して他の人に伝えたい」という思いももちろんありますが、私の場合は描きながら自分自身に向かって、そう訴えかけているんです。”絵を描く”という手段で、自分自身に新たな気づきを与えたい。視覚的にはっきりとコントラストのある色の組み合わせを使うことが多いのかも、そのためかもしれません。

ーーこれまで個展を開催するほか、LUMINEのウィンドウペイントやさまざまなブランドとのコラボレーションなどを手がけていらっしゃいますが、特に思い入れのある仕事はありますか。

 ERI

 去年の9月ごろに放送されたCM広告に出演させていただいたのはかなり色濃く記憶に残っています。主要駅にも大きくポスターが掲示されて、単純に「私ってこんな大きな広告に出られるんだ……!」という驚きもありましたが、アーティスト・ERI Takagiとしての自分を客観的に見たのがその時が初めてだったので感慨深かったんです。

またCM出演をきっかけに、仕事の依頼や個展に観に来てくれるお客さんが増えたのも嬉しかったですね。街中で「ERIさんですか?」と声をかけられる機会も増え、アーティストの私を応援してくれるファンの方がいるのが私の支えになっています。

ーー仕事をする上で行き詰まった時、ERIさんの支えになっているものやリフレッシュ方法ははありますか。

ERI

 

 趣味のサーフィンをはじめ、自然豊かな場所に足を運ぶのは私にとってとても大事な時間です。一切仕事道具に触らず遊ぶことに徹して、「何もしなくていい、何も考えなくていいよ」と自分を優先する時間を作るようにしています。

先日も、奄美大島に一ヶ月ほど滞在してリフレッシュしてきました。奄美の草木は東京よりもずっと鮮やかな緑色をしていて、木々の生え方もとてもワイルド。現地に信頼のおける友人もたくさんいますし、行くと必ずパワーをもらえる場所なので、少しでも休みが取れたら訪れるようにしています。

ーーERIさんの今後の目標や、挑戦してみたいことはありますか。

ERI

 実はもともと短いLA滞在の後に、本格的な海外での長期滞在を予定していました。それが新型コロナウイルスの流行で延期せざるを得なくなってしまったので、世の中がもっと落ち着いたらいつかまた新たな感性を吸収しに海外に行きたいですね。海外での展示もやりたいです。

絵の具や紙などの画材の開発に携わるのも一つの目標。私の作品で主に使っているアクリル絵具って、100%地球環境に配慮しているものがまだないんです。私にパワーをくれる大好きな自然を守ってくれる画材があったら、私自身も気持ち良く創作活動に打ち込めるし、より作品の説得力も増すと思うんですよね。

写真:riho ogura

※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。