コスモ・コミュニケーションズを選んだ理由
仕事の成果物はもちろん、パーソナルな面でも信頼関係があった。 (千葉)
千葉敬済さん(以下、千葉) 僕自身が石巻出身で、東日本大震災から10年という節目に何か会社でできることはないかと考えていたんです。実はこれまでにも株式会社 デイトナ・インターナショナルは、献血・骨髄バンクの啓蒙活動をする一般社団法人「SNOWBANK(スノーバンク)」への協賛や、熊本県を中心に被害が起きた「令和2年7月豪雨」で支援物資の活動を行ってきた経緯があります。東北は、復興したとは言われているもののまだまだ街全体が活性化している状態には遠い。さらに風評被害もあって、地元の産業も疲弊している。そんな話を地元の人としているなかで、東日本大震災によって被害を受けた東日本食品産業の長期的支援を目的とした一般社団法人「東の食の会」を紹介してもらい、ホヤ缶の現場についてお話を聞かせてもらいました。ホヤ自体のリブランディングが必要だなと思った段階で、これまで自社メディア「FREAK」の案件などを一緒にやってきたコスモ・コミュニケーションズの藤原さんに相談してみようと思い立ったんです。
藤原大朗(以下、藤原) これまでの数々のプロジェクトを通して、デイトナ・インターナショナルに社員それぞれがアイディアを持ち寄って発信する社風があるのを感じていました。今回も千葉さんからお話をいただいて、「FASHION YOU UP!」という行動指針のあるコスモ・コミュニケーションズとしてもぜひ力になりたいと思ったんです。
千葉 実は他にも数社ご相談はしていたのですが、コスモ・コミュニケーションズの成果物には信頼をおいていましたし、藤原さんの経歴やプライベートでの人柄や交友関係を信頼していたので一緒にプロジェクトに取り組むことにしました。
藤原 ありがたいですね。僕自身、過去にコアなセレクトショップに在籍したりDJをやっているので、様々な交流は強みでもあります。今回のプロジェクトは、普段食や復興支援に興味関心を持っていないような若者にも広く周知させたいという狙いがあったので、感度の高いYARというクリエイティブプロダクションにクリエイティブのパートナーになってもらうことにしました。「ホヤの缶詰のリブランディング」というミッションは決まっていたのですが、まだ具体的な方向性が定まっていなかったのでそこから相談させてもらいました。
千葉 僕自身、YARとはいつか何か一緒にやりたいと思っていたので藤原さんからの提案はうれしかったですね。間に入ってもらったことで、スムーズに進行できたと思います。
幅広い層に訴求するためにファッションの力を信じた。
ファッションやカルチャーを感じさせる切り口に振り切った。 (倉沢)
倉沢ことさん(以下、倉沢)学生の頃から食についての論文を書いたり、食事をテーマにした作品を作ったり、食については興味があり、食を食糧や第一産業としてだけでなくクリエイションやコミュニケーションとしてデザインを用いて伝えたいと思っていました。それでもお仕事として、缶詰のデザインを担当したのは初めてだったので楽しく取り組ませていただきました。
藤原 まずは冊子を一緒に作っていた編集者と「Hey, Ho YaH!」というメッセージを開発して、その言葉を中心にクリエイティブを作っていこうということになりました。
倉沢 最初はホヤが独特な味がする食べ物というのもあって、「おいしそう、キッチンにありそう」という表現の方向性も考えていたんです。どういう環境で育ったもので、どんな味がして……という食的なアプローチだったのですが、最初の提案のあとに「もっとファッションやアートによった表現が見てみたい」というオーダーがあったので、思い切ってそちらに振り切りました。
藤原 食器棚が似合う缶詰のデザインを作ってもらったのですが、今回はキッチンに限定せずに、部屋のインテリアにもなりえるようなものが良いんじゃないかと思ったんです。そのデザインをキービジュアルとして、アパレルや他のグッズにも展開していくことがデイトナ・インターナショナルでやる強みだと考えました。だから「ロンTにしてもカッコ良いものにしてほしい」とお願いし直したんです。
倉沢 缶詰の加工業者である「木の屋」が津波を受けた時に缶詰だけは残って、食糧が不足したときにそれを食べてやり過ごしたという話がとても印象的でした。津波を起こすのも海だけれど、ホヤが育まれるのも希望が生まれるのも海だと思ったので、海をベースに、希望を感じる光と、未来に向かおうとする気持ちのシンボルとして占いに使われるタロットカードのようなイメージのタイポグラフィをあしらいました。
藤原 自衛隊の救助が来るまでに3日間を、ホヤの缶詰を地域に配布してしのいだというエピソードに僕自身が感銘を受けたので、チームに共有して、同じビジョンが描けるようにしました。日頃から、マーケティングのデータだけで判断するのではなく、産業に根付いているカルチャーや思いを汲み取って共有し、共感してもらいながら進めていきたいと思っているんです。そういった意味でも今回は、倉沢さんが地域にも根付いている考え方を理解した上でタロットカードと希望というイメージを選んでくれて、YARに頼んで良かったなと思いましたね。
倉沢 私自身、デザインするときにはストーリーを一番大切にしたいと思っているので地元でのエピソードを共有してもらえたのはとてもありがたいヒントでした。藤原さんの考えやディレクションをよく理解しているメンバーも社内にいたので、デザインに迷ったときは社内でも相談しながら行いました。
藤原 YARのメンバーは遊び場も一緒で感覚が近いので、話がしやすいんですよね。コミュニケーションがとてもスムーズで僕自身も助かりました。千葉さんがもともと編集業界にいたので、編集的な視点で展開してくださったのも良い結果に繋がったのだと思います。「今何がイケているのか、おもしろいのか」という共通感覚が持てるチームが組めたのが功を奏しました。
ブランディングを強化した、多面的なアプローチと展開。
クリエイティブと店舗での展開が合わさってうまくいった。(藤原)
千葉 弊社としても複数のプロダクトが展開できるブランディングとなって良かったです。FREAK’S STORE エスパル仙台店に置いたり、同じフロア内にある東北由来の料理を提供するレストランで商品を使ってもらうなど、多面的なアプローチで展開しました。料理研究家の寺井幸也さんにメニュー開発をお願いしたことで話題性も産まれました。缶詰のビジュアルがポップだったことで観光で訪れた人にお土産品としても手にとってもらえましたし、反響が大きかったのでポップアップも延長しました。今後も、発展させていきたいプロジェクトのひとつになりましたね。
藤原 「FASHION YOU UP!」という行動指針の下に、東北の復興支援の一助となるプロジェクトに参加できたことは自分自身としても良い経験になりました。
写真:猪原悠
※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。