CIP 2022.05.19

食を通して、自分と地球にサステイナブルな働きかけを。 ー「美菜屋」代表 浅野美奈弥

 華やかなビジュアルと栄養価の高いお弁当が人気を集めるケータリング・お弁当販売店「美菜屋」。「美しい“菜”を食べる。”菜“を食べて美しくなる。」という思いから始まった。代表の浅野美奈弥さんは、料理家・モデル・ランナーとさまざまな顔を持ちながら、食とスポーツを通して健康になることを発信し続けている。最近はフードロス削減など食に関するサステイナブルな活動も行う浅野さんの原動力はどこにあるのか。

CIPとは

ファッション業界に携わり続けることで培った、Gravity独自のネットワークを強みとしたインフルエンサーサービス。Dear Andy.では、さまざまな分野で活躍する若手インフルエンサーに同年代の若手編集・ライターがインタビューをし、活動の仕組みや影響を与えているものなどをコスモならではの感度やセンスで紐解いていきます。

食を通して健康と美しさを。

ーーモデルの活動を続けながら、「美菜屋」を始められた浅野さん。料理の道に進もうと思ったきっかけは何でしょうか。

浅野

 16歳のときからモデル活動を続けていましたが、20代半ばに体調を崩してしまって……。「モデルとして活躍するには細くなければいけない」という思いが強く、過度な食事制限とそのストレスを繰り返したことが原因です。

 モデルは綺麗で華やかな職業に見えますが、実際は体調を崩してから精神的にもかなり落ち込んでいました。「今の自分は本質的な綺麗や美しさではない」と思い、食事を通して自分の体を見つめ直そうと決意。モデル活動を休止しフードスタイリングやスーパーフードの勉強、ダイエット検定など色々なアプローチ方法に挑戦しました。その中で自分にとって1番身近なものを考えたとき思いついたのが、モデル時代に食べていたケータリングやロケ弁です。食を通して現場の人々に還元したい。そうした思いからケータリング業の道に進むことを決め、料理家のもとで1年間修行をしました。

ーーその後独立し、「美菜屋」を始められたのですね。

浅野  そうですね。美菜屋を始める前にお仕事でフルマラソンを走る機会がありました。走る前は走り切れるのか不安でしたが、無事完走し「自分もやればできる」という自信に繋がったんです。修行していた料理家の元でスタッフとして働き続けることも考えましたが、フルマラソン完走が原動力となり、独立して美菜屋を始めようと決断しました。

ーー美菜屋の料理のこだわりを教えてください。

浅野

 美菜屋では料理に添加物をなるべく使いません。一食で平均8種類の野菜が入っており、そんなに食べることは滅多にないと思うので、自然の味を美味しいと感じてほしいなと。料理に使う出汁や調味料も自然のものを使うようにしています。あとは見た目が可愛いのはもちろんですが、ちゃんとボリュームがあって食べ応えがあるのも特徴ですね。

美菜屋で働くことを楽しみに思ってほしい。

ーー美菜屋の店内ではスタッフ数人が活き活きとお弁当を作っていた。

浅野

 美菜屋が他のロケ弁に負けないところは「対応力」だと思っています。私自身がモデルとして活動しているので、撮影現場にいる人々の気持ちがよく分かるんです。だから、当日の急な個数変更や早朝・深夜の注文など、どんな依頼でもなるべく応えたい。それに対して、チームの皆んなが楽しそうにしているのがすごくありがたいですね。誰か1人でもネガティブな発言をしてしまうと場の雰囲気が崩れてしまいますが、今のメンバーはオーダーが来ることに喜びを感じてくれていて、頼もしいです。最高のメンバーだと思います。

ーー現在、美菜屋は正社員・アルバイトも含めて10人のチームで活動しています。チームの運営・維持において大切にしていることはありますか。

浅野

 信頼関係ですね。コミュニケーションをとるために、毎日の賄いは絶対みんなで食べています。アルバイトの子は毎日シフトに入っていないので、その日の出来事やお客様からのご意見などチーム内での共有が大切。週に1回の全体ミーティングと月に1回の個人面談、あとは4月から日報も始めました。全員自分ではない違う性格なので合わせることは難しいですが、私がコントロールしなければいけないと思っています。ちょっとしたコミュニケーションで全員の共通認識を高めて、チームの温度感を統率するのは心がけていることですね。

 あとは私自身が仕事を楽しんでいるので、みんなも楽しんで仕事をしてほしいと思っています。今は同世代のメンバーが多く、昨日見たテレビや聞いているラジオの内容など世間話をしながら学校のような雰囲気で仕事をしている。それだけでなく、美菜屋のお弁当は見た目も可愛いので、作っているとテンションが上がるんですよ。「これって何の野菜だろう?」って新しい食材を知ったり、勉強してみんなの食事が楽しくなっている実感があります。メンバーにとって、美菜屋に行くことが楽しみであってほしいですね。

ーーチームの中でコミュニケーションを取る機会を設け、信頼を深め合っているのですね。美菜屋の中での浅野さんご自身の役割は何だと思いますか。

浅野

 もしかしたら、嫌な人かもしれません(笑)。味見に来て、細かいことを言って帰るみたいな……。

 美菜屋を始めたての頃は、注意することができなくて悩んでたんです。自分でする方が楽だし、怒ることが難しくて全部自分で解決しようとしていました。そうしていたら、2年くらい経ったときにスタッフが辞めてしまったことがあって……。辞めたいと言われたのが初めてだったので、すごくショックで落ち込んだんです。理由を色々考えてみると、自分がメンバーに注意しないことで逆に傷つけてしまっていたとハッとしました。現場を任せるだけではなく、自分の思いを細かく伝えて全員で改善していくことがもっと出来たと考え直すきっかけでしたね。現場を任せるのは、美菜屋の顔を任せること。だから今は嫌われても良いから、ちょっとした細かいことも言うようにしています。

 任せるってすごく難しいことだと感じています。自分1人で解決しようとしてしまいがちになるけど、チームの成長のためにはならない。失敗しても全責任は私がとるという気持ちで、若い子や新しい子にどんどん経験してもらった方がチームのためだと気付きました。色々な経験を乗り越えて、メンバー全員で美菜屋を育てていきたいですね。

発信することで社会への影響力に。

ーーステイホーム期間中、浅野さんのSNSでの投稿をきっかけに話題を呼んだ通称「アース弁」は、フードロス として捨ててしまう野菜の皮や芯などをお弁当にしたもの。「アース弁」はどのようなアイディアから生まれたのでしょうか。

浅野

 コロナ禍で家にいる時間ができたときに、フードロスについて考えるようになりました。飲食店は生ゴミがたくさん出るので今まで当たり前に捨てていましたが、「もしかしたら食べられる食材もあるかもしれない」という疑問がきっかけですね。調べてみると、皮の方が栄養価が高いことや今まで捨てていた茄子のヘタが実は食べられるなど、今まで知らなかった発見がたくさんありました。「じゃあ、これでお弁当を作ってみよう」と思って完成したのが、「アース弁」。本来は捨てる食材だけで作ったお弁当です。地球のためを思ってこの名前にしました。

 実際にアース弁を食べてみると、美味しいだけじゃなくて栄養価が高いのですごく元気になったんです。まるで栄養が爆発しているような感じ。普段捨てていたものを食べるという行動もすごく気持ちが良くて多くの人に知ってほしいと思い、SNSにアース弁の写真を投稿しました。そうしたら、実際に作ってくれた人が結構いたんです。自分が作って発信することで周りに輪ができ、生ゴミを捨てない人が少しでも増える。それだけでも地球にとって大きな影響だと思います。

ーー美菜屋は、“好きなものを未来のために”をコンセプトとした「ME LIKE」というオンラインショップの運営もしている。オンラインショップには食材やペットフード、美菜屋オリジナルグッズ「みつろうラップ」などの商品が並ぶ。オンラインショップで取り扱っている商品は、何を基準に選ばれているのでしょうか。

浅野

 

 商品を作っている人の思いに共感できるものを取り扱っています。取り扱っている商品の1つである「はみだし梅」は選別の過程で傷がついてしまい出荷はできなくなったけど味は美味しい梅干し。フードロス削減のためにすごく良いなと。

 ドッグフードも取り扱っているのですが、本来害獣駆除で捨てられてしまう鹿肉を利用して作られているんです。製造は廃校になった給食センターで行われているのもすごくサステイナブルだと思いました。そうした取り組みに少しでも力になりたいですね。

ーー浅野さんが美菜屋の活動を通して人々に伝えたいことは何ですか。

浅野

 体型にコンシャスになって過度なダイエットをしている人はまだまだいます。もしそれが体調悪化やストレスに繋がっているのであれば、食生活やライフスタイルなどを見直し、自分の体と向き合うことが必要です。向き合うきっかけとして美菜屋のお弁当一食だけでも栄養バランスが取れているものを食べてもらい、体の軸を作って欲しい。体がその軸を覚えてくれれば、たまにお菓子を食べたり飲酒したとしても、いつでもその軸に戻れると思っています。

ーーケータリング業やお弁当の販売、オンラインショップなどさまざまなことにチャレンジしてきた浅野さんが次に挑戦してみたいことは何ですか。

浅野

 今の店舗が手狭になってきているので、もう少し拡大したいなと。あとは今までやってこなかった料理教室や食育をしてみたいと思っています。アース弁を作ってから、自分の活動を発信することで少しでも社会が変わる可能性を感じました。自分達がオンラインショップで取り扱っている商品もサステナブルなものですし、フードロスを意識したお弁当作りや食育のワークショップを通して美菜屋の思いをもっと広めたいです。

写真:猪原悠

※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。