
焼却されるだけの廃棄物に新たな命を吹き込みたい。
ーー『渋谷肥料』の活動内容について教えてください。
虹希 |
簡単にいうと、渋谷を起点に都市型のサーキュラーエコノミーを生み出していくプロジェクトになります。渋谷で生まれるゴミの約7割が事業廃棄物。そしてその約半分が生ごみと言われています。私たちはその生ごみからできた肥料で作物を育て、あるいは外部の企業と連携し、新たなプロダクトを生み出しています。 渋谷はカルチャーの中心地として煌びやかなイメージがある一方で、溢れるものがただ消費されるだけの街になっていると思っています。私たちは、ただ焼却処分されるだけの渋谷の生ごみに価値を見つけて、渋谷が新たな循環の出発点になることをミッションに掲げています。 |
---|
ーー虹希さんが食品ロスやサーキュラーエコノミーに目を向けるようになったきっかけを教えてください。
虹希 |
意識が変わった最初のきっかけは、中学二年生のケーキ屋での職場体験。私はケーキが大好きでいつもお客さんとして足を運んでいたけれど、お店の裏側に立ってみたら、毎日売れ残った大量のケーキが廃棄されているのを知りとてもショックを受けました。初めて食品ロスの事実を突きつけられた瞬間でしたね。 その後の大きなきっかけになったのが高校2年生の時のオーストラリア留学です。オーストラリアは食品ロスをなくすために先進的な取り組みをしている国。1年間の滞在の中でどんな取り組みをしているのか、どんな課題があるのか可能な限りリサーチしました。そこで気づいたのは、フードバンクなど食品ロスの取り組みを数多く行っているオーストラリアでも、その活動をビジネスとして成り立たせるのは難しいということ。社会性が高くても収益に繋がらないからなかなか活動自体を広めていくことができないというジレンマを目の当たりにしました。そのモヤモヤを抱えて日本に帰国し、サーキュラーエコノミーをビジネスとして成立させるために何か行動したいと思うようになりました。 |
---|
ーーそこから『渋谷肥料』の活動に参加するまでは、どのような経緯だったのでしょうか。
虹希 |
帰国後、渋谷スクランブルスクエアの上にある「SHIBUYA QWS」(以下、QWS)で「渋谷肥料」代表の坪沼敬広と偶然出会ったのがきっかけです。QWSは渋谷を中心とした新しい価値の創造に挑戦する幅広い年代の人が集まるコミュニティ。私はQWSメンバーである知り合いのエンジニアに案内してもらっていたのですが、そこで紹介してもらったのが坪沼でした。留学した後でちょうどサーキュラーエコノミーを新しい形でアプローチできないか考えていたところだったので意見が合致。すぐに「渋谷肥料」のメンバーとして一緒に活動していくことになりました。 |
---|
渋谷肥料のメンバー
左から坪沼敬広さん、虹希さん、野田英恵さん
ーー当時、周りの人からはどんな反響がありましたか。
虹希 |
家族など身内の人が応援してくれたのは嬉しかったですね。同級生のクラスの子たちも「何かプロジェクトをやってるらしいね、すごいね」と言ってくれましたが、大体話はそれ止まり。「周りは興味ないだろうな」と感じてしまって高校時代は活動内容に関して自分から積極的に言えなかった部分もありました。実際にどんなことをやっているのか、何を目標にしているのかなど深くまで興味を持ってくれる人はなかなかいなくて、サーキュラーエコノミーがまだ広く浸透していないもどかしさを実感しましたね。認知度も広めていきたいと改めて感じましたし、渋谷肥料の活動を通して自分がやりたいことがますます明確になったと思います。 |
---|
ーー高校から活動を始めたことで、その先の大学進学など、進路を考え直すきっかけになることはありましたか。
虹希 |
そうですね。「渋谷肥料」の活動を始めてから、今通っている慶應義塾大学総合政策学部(SFC)に興味を持つようになりました。SFCには会社を経営している人や、プロジェクトを立ち上げている人など、面白いことをやっている人が多いんです。同じような志をもつ人たちに囲まれる環境がとても魅力的でした。また、授業が多様化していて自由度高く学べるのもいいところですね。大学1年生から専門的に学べるゼミに入ることができるので、他の大学よりも実践的でとても勉強になります。 |
---|
ーー虹希さんは、大学のゼミで実際にどんな勉強をしているのですか。
虹希 |
私が入っているのは、経営の知識を体系的に学べる「琴坂将広研究会」と、卒近代のソーシャルプロデューサー養成を目的とし、私のようにプロジェクトをやっている人たちが多く集まっている「すずかんゼミ」(鈴木寛研究会)の二つ。「渋谷肥料」のプロジェクトを始めてから、どうしても活動のことばかり考えてしまって自分自身に向き合う時間をなかなか作れなかったのですが、ゼミに入ってからはその時間を作ることができてとても助かっています。どちらのゼミでも、自分よりもずっと優秀で頑張っている人たちに出会えたのはとてもいい経験になりました。 |
---|
サーキュラーエコノミーをもっと身近に感じてほしい。
ーー虹希さんはどのような立ち位置で「渋谷肥料」に関わっているのでしょうか。
虹希 |
私は普段、「経営×クリエイティブ×ソーシャルインパクト」を軸として新規ブランドの立ち上げやプロダクト開発に携わっています。渋谷肥料ではこれまでに、主に「サーキュラーキット」「サーキュラーコスメ®︎」「サーキュラースイーツ®︎」の3分野の商品開発に取り組んできました。パッケージデザインなどにも関わっており、実際に消費者の手に渡る製品を通して「渋谷肥料」の世界観をどうやって作っていくかを考えています。 |
---|
ーー中でも特に思い入れのあるプロダクトはありますか。
虹希 |
2021年に販売したサーキュラースイーツです。構想し出したのは高校3年生だった2020年の夏。「渋谷肥料」としてどんなことができるか大きな紙に7時間くらいかけて書き出して考えたことがあって、その時にできたアイデアの一つがサーキュラースイーツでした。 渋谷スクランブルスクエアの飲食店から出る生ごみは、茨城県にある食品廃棄物のリサイクル工場に送られています。そこで堆肥化されて、さつまいも「紅はるか」の栽培に肥料として使用されているんです。今まではそうやってさつまいもを作って終わりだったのですが、そのさつまいもを使ってスイーツを作れば、付加価値のある商品として再び渋谷で売ることができる。ケーキを通して美味しいサーキュラーエコノミーの循環を作ろうと考えました。 アイデアを思いついてから約一年後に実際に人の手に届く形にできたことにとても感動したのを覚えています。 |
---|
ーースイーツは実際にどんな手順で完成したのですか。
虹希 |
スイーツに関しての知識はほとんどなかったので、QWSの横にあるカフェ「HInT」のシェフに協力してもらい、頭の中に思い描いているものをデザインや材料など一緒に試行錯誤しながら形にしていきました。「紅はるか」の甘みを活かすために贅沢にクリームをたっぷり使ったマカロンはお客さんからもとても人気でした。 サーキュラースイーツのプロジェクトで特に手こずったのは、食材の入手ルート。飲食事業の経験がなくコネクションを全く持っていなかったので、農家と繋がりのあるQWSの会員に仲介してもらいながら、直接取引をしたのはとても良い経験でした。改めてQWSの繋がりがあったからこそできたプロジェクトだったなと思います。 |
---|
ー今新たに注目している原料やプロダクトはありますか。
虹希 |
スイーツは茨城を経由しましたが、私が特に進めたいのは栽培から製造、販売まで全てが渋谷で完結するサーキュラーエコノミー。そこで今注目しているのがハーブです。都心では土壌や気候、日当たりなどの関係でどうしても作物の栽培が難しいのですが、ハーブは厳しい環境下でも育つ。「渋谷肥料」でも1〜2年前からハーブ栽培に挑戦しています。堆肥化できる機械を持っているので、渋谷のカフェから出たコーヒーカスをメインに自分たちで堆肥化。渋谷のビルの屋上でハーブを育てています。 完全に「made in 渋谷」で、ハーブが育った土壌まで見えるような透明度の高い「サーキュラーコスメ」の開発を更に進めていきたいです。 |
---|
ーー「渋谷肥料」の今後の展望はありますか。
虹希 |
「サーキュラーエコノミーといえば渋谷肥料」と思ってもらえる存在になりたいです。ありがたいことに、製造過程でどうしても生ごみが出てしまう食品メーカーや、芋緑化(※)で育った芋をうまく活かしきれていない企業などからもお一緒に取り組みをしないかとお声がけいただくことが多く、そういった外部との連携を増やしていきたいですね。 でもその前に、まずは自社で「渋谷のごみを使って渋谷で原料となる作物を育て、渋谷でプロダクトを販売する」という渋谷を中心とした完全なサーキュラーエコノミーを実現するのが目標です。 サーキュラーエコノミーという言葉は難しそうに聞こえるかもしれないけど、実際はみんなの生活もその循環の中にある。他人事のようで、誰もが当事者であるということを「渋谷肥料」のアイテムやワークショップなどのイベントを通して広く伝えていきたいです。 |
---|
(※)空調用室外機の周りに芋葉を繁茂させ、 芋葉による日陰効果と蒸散作用により、室外機周辺の気温を下げるこ とで空調電力の低減効果を得る仕組み。
撮影:英里
撮影協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)
※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。