CIPとは ファッション業界に携わり続けることで培った、Gravity独自のネットワークを強みとしたインフルエンサーサービス。Dear Andy.では、さまざまな分野で活躍する若手インフルエンサーに同年代の若手編集・ライターがインタビューをし、活動の仕組みや影響を与えているものなどをコスモならではの感度やセンスで紐解いていきます。 |

私たちが声をあげれば、政治が応えてくれる。
ーー能條さんが政治に対して最初に興味を持ったのはいつだったのでしょうか。
能條 |
神奈川県平塚市の出身ですが、「青少年議会」という市内の小中学生を集めて行われるワークショップに小学校6年生の時に学校の先生の推薦で参加しました。政治に関わったのはその時が最初ですね。その会で具体的に何をしたのかまでは記憶が曖昧ですが、市の課題についてヒアリングしたり、最終的に市長に解決策を提案するような内容だったと思います。でも内容よりも当時の平塚市長が女性だったことが強く印象に残っています。それまで、母をはじめ親戚など身近な大人の女性はみんな専業主婦だったので、働いている人というと学校や幼稚園の先生というイメージしかなかった。政治のフィールドで、しかも市長という立場で女性が活躍しているのが私にとってとても印象的だったことはよく覚えています。 |
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ーーそこから「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げるまでに、能條さんの考え方を変えたターニングポイントはありますか。
能條 |
高校生の時に、社会の中の分断や格差について考えるようになりました。 東京大学や医学部進学者を数多く輩出するような私立の中高一貫校に高校から入学したのですが、それまで通っていた公立校とは違って「良い大学に行って、良い企業に勤めるのが目標」という考えの人が多く、そこに価値観の違いがあることに驚きました。同時に、「良い大学に行って良い企業に勤めるだけが幸せじゃないはずだけど、社会の様々なルールや枠組みを決めるトップにいるのは、結局強い立場にいる人間なんだな」ということをなんとなく感じたんです。十分な教育を受けられない人がその環境を変えたくても、決定権は実際にその立場にいる人にはない。誰にでも平等に権利があるはずなのに、こういうところから社会の中での格差が少しずつ広がっていくんだろうなと漠然と思いました。 |
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能條 |
「私たちが声をあげれば、きちんとその声を聴いてくれるのが政治」というのは小学生の時に参加したワークショップの時から感じていました。でも同世代で政治の話をしている人は滅多にいないし、ましてや政治の重要性に気づいている人も少ない。だから、社会を良くするためには私たちのような若い世代の意識を変える必要があるなと思ったんです。自分の知らない世界のことをとにかくたくさん吸収したくて、大学生になってからはフィリピンに行ってNPOのボランティア活動をしたり、選挙のインターンに参加したり、はたまた政治とは違う畑のマーケティングのインターンをしたりしていました。でも特に、大学時代のデンマークへの留学はかなり大きな転機だったと思います。 |
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ーー数ある国の中からデンマークを選んだのはなぜですか。
能條 |
世界の政治について学んでいくうちに、投票率が高くて政治参加が盛んな北欧の国々があるということを知りました。その中でもデンマークを選んだのは勤労青年を主な対象とした社会教育施設『フォルケホイスコーレ』に行きたかったから。「民主主義の学校」と言われるその場所は、何か特別な資格やスキルを得るというよりも、社会や人生のために自分が何をしたいのか考えることに重きを置いた学校でした。良い企業に勤めてエリートになることだけが幸せではないとなんとなくずっと考えていたので、学校の教育理念にすごく共感したんです。 |
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ーーデンマークで過ごしてみて、具体的にどんなところで日本との違いを感じましたか。
能條 |
デンマークの人たちは、みんな普通に「社会は変えられる」というマインドを持っているんですよね。例えば、学校の給食のメニューに偏りがあれば絶対に誰かが直接シェフに伝えにいくし、つまらない授業をする先生がいれば「どんなところが面白くなかったのか、どうしたらもっと良くなるのか」ということを書いたメモを先生にパッと渡しに行く人がいるんです。自分が意見を伝えることで変わってくれると思っているからこその行動ですよね。確かにずっと文句を言っているよりもその方がずっと建設的だし気持ちよく過ごせる。シェフや先生の例えは学校のコミュニティの中の小さな話ですが、そのマインドはデンマークの高い政治参加率にも繋がっているんじゃないかなと思います。 |
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多方面からの声を聴くことで、リアルなニーズに気づける。
ーー能條さんが何かを決断するときに最後のきっかけになるものや、心を惹かれるものに共通点はありますか。
能條 |
いつもロジックではあまり考えていなくて、「直感でなんとなく惹かれるな、ずっと考えちゃうな」みたいなワクワクを大事にしている気がします。それは留学先にデンマークを選んだ時も同じ。今後国際社会の中で働くんだったら、イギリスやアメリカなど、英語が第一言語の国に行った方が英語力も成長しただろうし、その方が現実的でした。でも、『フォルケホイスコーレ』の存在を知ってから、もうそれが頭から離れなかったんですよね。
あとは、「人生は自分が“何を集めるか”ではなく、“人に何を与えるか”というところに価値がある」という軸も大事にしています。肩書きや学歴、お金など自分が収集するためのアクションは、長期的に見たらあまり価値がないことだと思うから、それよりも自分の行動で何か新しい価値を生み出したり、次の世代のためになることをしていきたい。でもよく考えると、それは結局他者のためというよりは巡り巡って自分のためなんですよね。自分がストレスなく気持ちよく生きるために、自分のいる社会を変えるために行動しているだけ。自分のために起こした行動が、たくさんの人にも良い影響を与える。それが政治に参加するということだと思っています。 |
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ーー世の中の動きやニュースをキャッチするために、能條さんが日頃から意識的に行っていることはありますか。
能條 |
新聞や本はよく読むようにしていますし、できるだけ多方面から人の話を聞くようにしています。先日もLGBTQの国際デーに合わせて行われたトランス差別のウェビナーを聞きました。それぞれの分野の第一人者の方が、今何を変えたくてどうしようとしているのかということにはすごく興味がありますね。 その一方で、政治に全く興味のない人と話すのも大事にしています。政治に関する知識がまだ浅く社会の問題に対してのバイアスがないからこそ、抱えているモヤモヤがリアルだったり、独特な視点を持っていたり、盲点だった議論のポイントに気づかせてくれたりすることが多いんです。そういったモヤモヤはふとした会話の中でよく出てくるので、友達からなんでもない世間話や愚痴を聞くのが大好き。会う人会う人に、今どんなことを考えていてどんなことに不満があるか聞くと、よりリアルなニーズが得やすいです。 |
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政治は社会課題の根本を解決するための唯一のツール。
能條
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もともとこの活動を始めたのは2019年の7月、参議院選挙の時でした。参議院選挙の被選挙権、つまり選挙に出られる年齢は30歳から。つまり、18歳から29歳の人は、投票はできるけど自分たちの世代から代表者を送り込むことができないんです。だったら「その分投票くらいちゃんとして、存在感を示すことで声を上げていかないといけない」という問題提起の意味を込めてU30に設定したんですよね。
私たちは、政治は社会課題を解決するためのツールと捉えています。だからInstagramのコンテンツで取り上げた話題も、最終的に自分たちが感じている社会課題とどう繋がっているのかというところに着地するようにしています。 「政治ってコスパ悪い」「もっと直接社会に貢献できる企業に勤めた方がクールだし効率的」というイメージを持っている人はまだまだ多いですよね。実際私もそうでした。でもやっぱりどんな問題にも、掘り下げると根底には政治がある。根本を解決していかないとその上にある私たちの生活は変わらないということを、もっとU30の世代に訴えていきたいですね。 |
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能條 |
2019年7月から活動を始めた「NO YOUTH NO JAPAN」はちょうど今年の7月で4年目に入りましたが、「今の社会の中でのU30の存在感を高めて、一緒に社会に参加していく人を増やしていく」という大きな軸は変わらず常に意識していきたいですね。 その上で“人任せにするのではなくて、自分たちが能動的に社会や政治に参加していく”という「参加型デモクラシーをカルチャーに」のビジョンを「NO YOUTH NO JAPAN」の小さなコミュニティの中でこそ実践していきたいと思っています。小さいとはいえ40人ほどのメンバーを抱える立派な組織。そこで参加型デモクラシーを実践できていなければ、もっと大きな社会で実現できるはずがないと思うんです。ワクワクすることを追いかけながらも、チームの民主主義の土壌も豊かにしていきたいです。 また、個人的には経営者として成長したいと思っています。4年目になりチームも大きくなってきたところで、今後を見据えてしっかり組織の基盤を固めていかないといけない。今までは“代表”という立場だったけど、もっと経営のスキルを身につけて、マネジメント的な面でもチームをまとめていきたいです。 |
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写真:英里
※コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行い、撮影時のみマスクを外しております。